GT_LOVERS
鈴木大介×鬼頭黎樹
GONTITI結成40周年&デビュー35周年を記念し、GONTITIをこよなく愛する、
ギタリストの鈴木大介氏とCDショップ「songs」店主の鬼頭黎樹氏がクロストーク。
GONTITIの魅力やその音楽にまつわる思い出、
さらには二人に聞いてみたいことなどを、思う存分に語っていただきました。
また、「GONTITIへのクエスチョン」(4ページ目)本文中の
GONTITI
をクリックすると
GONTITI本人のコメントを読むことができるので、
そちらもあわせてお楽しみください。

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第2回
「we are here」&マイベスト3

鈴木 鬼頭さんのアルバムベスト3はどれですか?

鬼頭 初期に偏っちゃいました。やっぱり高校2年からの思い出があるから……。

鈴木 若い頃から聴いてるし、GONTITIさんの音楽ってインストゥルメンタルだけど歌詞が付いているくらいにちゃんと物語があるから、自分史的なものと切り離せないですよね。それはメロディが強いからだと思う。あと、ギターをやっている人にとって、日本のギターミュージックなんですよ。海外の人に“日本っぽいでしょ”って聴かせられる。

鬼頭 工芸品みたいですよね。

鈴木 日本の音楽って海外の影響を受けているじゃないですか。今ならラテンのムーブメントがあったり……。そういうものを全部、貪欲に取り込みつつも全然違う自分たちだけの音楽を作っていると思うんです。

鬼頭 GONTITIのお二人が日本人じゃなかったら、こういう音楽はできないと思います。どこか日本人の身体感覚がある。

鈴木 節度がある。

鬼頭 そう。俯瞰している。興奮して音遊びに夢中になってはいるけど、全体を静かに眺めてもいると思うな。

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鈴木 さっき鬼頭さんが箱庭っておっしゃった感じ……盆栽の持つ小宇宙みたいな部分がある。すごく身近だと思える音楽なんですよね。日本人にグッとくる。友達のスペイン人フラメンコギタリストが“自分がユニバーサルになろうとしたら、ローカルを極めるのが一番”って言ってたんです。“ここにしかないものだから、世界に必要なんだ”っていうこと。だから海外でもGONTITIさんの音楽は受け入れられる。実際に作った場所はいろいろかもしれないけど、日本に住んでいる人の音楽だなって思う。

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『we are here』
-40 years have passed and
we are here-


PCCA.50305
Release:2018.12.19

鬼頭 「we are here」は本当にそんな感じ。僕、陶芸が好きなんですけど、器の模様って海外の影響を受けてできあがっているんですよ。でも、その土地の土を使い、作る人のフィルターを通して日本の地で結実する。それが工芸品だと思うんですけど、「we are here」はまさにそれ。すごく丁寧に作ってあっていろんな要素があるけど、やっぱりGONTITIさんが作ったものだなって思う。そういうところに人生の歩み方が普通の人と違うのを感じるというか……。ある意味ぼんやりして明後日の方を見てたりするじゃない(笑)? でもそういう思想がいいんですよね。ご本人は何て言うかわからないけど。

鈴木 あと「we are here」は昔の要素が戻ってきたと思うんですよ。アレンジャーさんに若い方を起用されていて、その方たちが初期のGONTITIさんの影響を受けているのでサンプリングの曲があったりとか……。これは僕にとっては懐かしい!って感じなんですよね。そしてすごく集大成的な作品だと思います。

鬼頭 積み重ねを感じますよね。

鈴木 だからマイベストの 3枚に「we are here」は敢えて入れていません。特別な作品だから。ということで、ベスト3を発表しましょう。

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In the Garden

ESCB1063
Release: 1988.7.21


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マダムQの遺産

ESCB1062
Release: 1987.7.22


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PHYSICS

ESCB1059
Release: 1985.2.22

鬼頭 僕は好きな曲が入っているっていう理由で選びました。3位は「In the Garden」。松浦雅也さんがアレンジした「アンダーソンの庭」という曲が好き。そして清水一登さんというキーボーディストでクラリネット奏者でもある方が4曲アレンジをしているんですけど、その4曲も全部好き。なかでもお気に入りの曲は、MUTE BEATという日本初のダブバンドのこだま和文さんと増井朗人さんが参加している「クルトが町を行く」。この人選にびっくりしましたよね。異色過ぎるし早すぎる。でも聴くとすごく気持ちいい。で、「Abel」という曲は、チェリストの溝口肇さんの弦楽アレンジ。これがまたすっごくきれいで、とろけるようなストリングスです。続いて2位は「マダムQの遺産」。「Watchdog in the afternoon」が大好き過ぎて、未だにGONTITIって聞くと頭の中で流れます。全部が集約されているようなザ・GONTITIサウンドでカッコいい曲。多ジャンルが混じっていて、さっき話した清水さんがアレンジャーとして遊びまくっています。とぼけているけど、攻撃的(笑)。そして1位は「PHYSICS」! この作品はライナーノーツが難解で……(笑)。この時のGONTITIさんは、写真も含めすごくシリアスな感じがする。

鈴木 「PHYSICS」が発表された1985年頃、GONTITIさんってハイブリットな感じの人たちしか聴いてなかったんですよね。たぶん1987年リリースの「マダムQの遺産」ぐらいまではそういう感じ。もうちょっとあとになってCMやトーク番組で流れ出す。

鬼頭 「PHYSICS」は三上さんのテイストが強い気がする。尖った感じ。

鈴木 三上さん、いつも“いい人だな~”って思う(笑)。でもTwitterやYouTubeで、若いアレンジャーさんを探すっておっしゃっていたから、その辺り(の感性)はすごく尖っているのかもしれない。

鬼頭 ほら、日本にビジュアル系が台頭してきた頃、いち早くSOFT BALLETを評価していたのはお二人。そういうアンテナってすごいですよね。で、「PHYSICS」は鋭い感じなんですけど、ラストの2曲とかは柔らかで穏やか。だけど、エコーの音響処理の仕方が現在のとはちょっと違う、当時の最先端の残り香がするんですよ。既に穏やかで美しいアコースティックの素地はあるけど、当時のスタジオや機材でしか出せない音響がまとわり付いているんですよね。ギジギジとかガジガジとか、やたら深いエコーがかかっていたり……。でもそういう80年代のアンビエントミュージックとかが、今キテる。 だからそういう意味でも「PHYSICS」は今一度聴き直すといいかもしれないって思います。さて、鈴木さんのベスト3は……?

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KIT

ESCB1157
Release: 1991.6.21


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Holiday Home Songs

XNHL-15004/B
Release: 2016.12.14

鈴木 まず3位は「KIT」。この作品は初期から中期への過渡期なんですよね。パーカッションが意識して使われ始めている。打楽器のミックスの仕方が斬新なんです。クレジットを見ると越智兄弟さんと梯郁夫さんという3人体勢のパーカッション。それはその後「Red Box」まで続くんですけど、すごくカッコいい。それまでGONTITIさんは打ち込みがバッググラウンドの曲のイメージが強かったのが、突如、生の打楽器が活躍し出して驚いたんですよ。そういう作品のなかでも「KIT」は曲が強い。ただ「Devonian Boys」も曲が強いんで、どちらにしようか悩んだんですけどね。アコースティックって意味で選ぶと「KIT」かなって。「君の自転車」っていう曲があるんですけど、あっと驚く展開をしますから。これ聴くとびっくりする。そして2位は「Holiday Home Songs」。いわゆるライブ映像とライブのあとにスタジオ録音したCD&Blu-rayの2枚組なんですが、結構昔の曲も入っていて音も演奏もすばらしい。鬼頭さんがさっき工芸品っておっしゃいましたけど、ギター2本だけですが本当に磨き抜かれている。僕、やっぱり演奏を聴いちゃうんですよね。そうすると“いや、すごくいい演奏!”ってなって……。Blu-rayにはゲストが入っているんですが、CDはギターデュオだけ。そういう作品ってほかは「humble music」と「DUO」と「GUITARS」のみ。

鬼頭 意外と少ないですね。

鈴木 そして2曲目「塩と太陽」の松村さんのバッキングギターのリフが神がかってる。音もきれいで録音もいいし、バランスもいい。

鬼頭 極まってる。

鈴木 ギターだけにフォーカスしている。

鬼頭 やっぱり演奏能力に勝るものはないってことですね。

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Strings with Gontiti

ESCB1901
Release: 1998.7.18

鈴木 ほれぼれしますよね。……で、1位は「Strings with Gontiti」。

鬼頭 僕も迷った(笑)。

鈴木 でしょ(笑)?

鬼頭 泣くもん。最後の「Closed Book」が一番好き!

鈴木 全11曲で、さっき名前の挙がった溝口肇さんのアレンジした曲も入っているし、ジャキス・モレレンバウムというブラジルのすごいチェリストが参加してます。

鬼頭 そう、それびっくりした!

鈴木 ジャキス・モレレンバウムのストリングス。もうこれは11曲ではなく、11本の映画。

鬼頭 そしてタイトルもいいですよね。ストリングスが主役ってなってる。「Strings with Gontiti」って、そこまで謙虚にならんくても……みたいな(笑)。

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Red Box

ESCB2004
Release: 1999.7.23

鈴木 日本人のアレンジャーさんの曲ってちょっと懐かしさとか昭和感があったりするけど、「Strings with Gontiti」は異質ですね。いわゆるGONTITIサウンドっていうと、鬼頭さんが挙げた3枚のような感じがベースだから、僕が選んだ3作は異質な3作。ただ異質と言えば「Red Box」。これは本当に異質(笑)。

鬼頭 そう。ワールドミュージックに開いちゃった感じ。

鈴木 「Strings with Gontiti」はバランスよくぶっ飛んでるけど、「Red Box」は際までいってますね。内容がバラバラでアコースティックなインストゥルメンタルもあれば打ち込みもあって、急にホーミーも始まる。

鬼頭 1曲目の「fire & trap」だ。「Red Box」は、持っている引き出しを素直に全部、ワッ!って開けちゃった感じですよね。だって、デトロイトテクノとかシカゴハウスみたいな曲も入ってる。趣味全開(笑)。

鈴木 曲順に困ったんじゃないかな(笑)? とにかくショックが強かった。

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Black Ant's Life

ESCB1647
Release: 1995.9.1

鬼頭 あ、でも「Black Ant's Life」はショックなジャケットですよね。反抗的(笑)。

鈴木 そして内容もすごく強い。

鬼頭 “快適音楽って何?”みたいな……(笑)。たまに自分たちのイメージを脱ぎ捨てたくなるのかな? 「Black Ant's Life」の制作現場が見たかったな。

鈴木 ま、僕のセレクトは、2位の「Holiday Home Songs」と1位の「Strings with Gontiti」がある意味、真逆。前者はギター2本で後者は大オーケストラ。どちらもちゃんと成立する。

鬼頭 でも全体的には生音に近いものを選んだって感じですか?

鈴木 そうですね。でも「KIT」は水の音がボコボコって入ってたり、サンプリングの方も攻めてると思う。

鬼頭 大介さんらしいセレクトかなって思いました。常にコンサートホールにいるから、スタジオじゃない部分の生の響きが気になるんですね。

鈴木 同時発生感というか……ドン!ってやるのは空気感がいいんですよね。

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第3回 私にとってGONTITIとは……